人事評価制度を作る時期は

事業は順調、しかし辞めていく社員が続出

文「人事評価制度を作りませんか?」という問いかけに、「うちはまだ従業員が少ないし、作るとしたらもう少し業績が上がって従業員も増えてからだね。」

 その後、事業計画に沿って会社の業績は順調に拡大し、従業員も増えていく。しかし、ここにきて社長に悩みが。従業員は増えているが、ようやく育ってきた頃に従業員が次々に辞めていくのだ。しかも、期待していた従業員たちが…。

育成には充分な時間をかけ、配慮をしていたつもりなので、社長としては納得のいかない様子。そこで、辞めていく従業員に何故なのか聞いてみると、理由は「上司と合わなかったから」「会社の評価に納得できない」というものだった。


上司を呼んで退職理由を聞いてみると…。
「アイツは仕事ができるが、周りへの気遣いが足りなくて…」
「定期的に時間をとって話あっていたんですが、突然やめると辞表を差し出されて、こっちがびっくりしています」

 
   部下に辞められて意外感のある上司。当然の結果ではないかと受け止める上司。

 直属の上司に確認したことで見えてきたことは、日頃のコミュニケーション不足に原因があるということ。ミーティングを行なっているが、カタチだけの内容で、日頃部下が考えていることや本質的な部分のコミュニケーションが成立していなかったのではないか。

見えてきた自分の未来の姿

 ようやく育ってきた従業員が辞める…。入社したての頃は分からないことだらけで、毎日必死に業務をこなしていく。徐々に仕事に慣れてきて、ようやくこれからという時に見えてくるものは、3年後、5年後の先輩従業員の姿。仕事の中身であったり、処遇であったり、考えや方や発言の内容。そういった事を見聞きしていくうちに、自分との将来の姿を重ね合わせる。


「自分はこの先、この会社でやっていけるのだろうか?」
不安にかられていくのだ。

 
  後日、最近辞めたAの同僚が教えてくれたところによると、「Aは上司から性格が気に入られなかったようで、その上司とはうまくいっていなかったみたいです。お気に入りの部下は仕事はできなくても、上司に対しての気遣いや愛嬌で評価をしているみたいで…」

 
   管理職の部下評価が属人的に(相性)行われている。いわゆる上司に寄り添ってくる部下に甘くなりがちで、仕事ができる従業員からすると、上司に気遣う暇があったら仕事で成果をあげたほうが、という気持ちである。

  少人数の時であれば社長が直接従業員一人一人に関わっていくことができたはずではあるが、数百名規模となった現在では直接関わるのはさすがに無理があり、ここは橋渡しとなる管理職に任せるしかない。

社長のもうひとつの悩みは給料体系

面接で即戦力として入社後すぐに活躍できそうな応募者があり。社長はどうしても採りたいとも思いから、その応募者を採用するために、給料・条件をその場で決めていく。結果として、社内で経験あるベテラン社員の給与よりも高くなることがある。

  どうしても必要な人材を採用したいというトップの意向で、待遇面については即断即決で対応できるのが中小企業者の強みではあるのだが…。

 
  中小企業の場合は、トップの一存で昇給が行われるところが多くある。一定の規模に成長してくると、職務と職位の給料支給額を改めて確認すると矛盾が生じ、その後の給与体系で苦労することになる。さらに成長に向けてギアアップしていくには、その課題を解決して次のステップへ進みたいところ。

 
  ここにきてようやく社長の頭には「人事評価制度を作るか」という考えが浮かんでくる。役員全員を集めて今後のことを考えた時に、評価制度を策定する旨を伝えるが、反対意見が続出。いわゆる新しい取り組みへの抵抗である。

 

  彼らの反対理由としては、「人事評価制度を作るということは、管理職が部下を評価しなければならず、忙しい業務の中でそれがやれるのか?」「そんな時間があれば目の前の仕事をこなすことを優先する方が効率がいいのでは」「管理職の負担をこれ以上増やすと彼らから不満が出るので勘弁してほしい」

 
    つまり、ただでさえ忙しいのに、これ以上仕事を増やさないでほしいという彼らの持論。
 ここに、数年先を見る経営者視点と、今日、明日の自分たちの立場しか見えていない管理者の視点がある。

    評価制度を既に導入している会社でも、運営がうまくいっていない会社がある。特に中小企業の場合は、自社に関わる会計事務所や税理士事務所に依頼するケースが多いみたいだ。依頼を受けた事務所は大企業の雛形を参考に作成している。

  数百万円かけて導入したのはいいが、ほとんどの会社で導入後、形骸化している事実が…。

次ページ>原因ははっきりしている

 使いこなせていない原因は評価項目の多さ。一つ一つの項目は、なるほどという項目だが、6ヶ月、1年間の査定期間で多項目に沿って上司が部下を評価する。部下もこの多項目をすべて実行するのは無理がある。査定結果の面談では項目に沿っての確認は難しく、結局曖昧な面談となり、繰り返す都度に次第に形骸化していく。

では、なぜ形骸化するのか。

会社都合の人事評価になっていないか?

何のために人事評価制度を行うのかがはっきりと示されずにスタートしているからだ。

 おそらくは、評価のための評価制度。自社もそろそろ評価制度を取り入れたほうがいいのでは?というカタチから入っていっているケースが多い。

 立派な箱(人事評価制度)を作って、その箱に従業員を当てはめようとする。コロナ禍や世界の急激な変化に、最初に作った箱(人事評価制度)はすでに役に立たなくなっている。
  
役に立たなくなった急先鋒が給料。箱の中身を時々の経営状況に応じて入れ替えていくことが必要だが、箱の中身(評価項目)はそのように設計されていない。

 過去30年間、日本の給料は上がっていない。大企業の年収平均970万円に対して、中小企業の年収平均は650万円。圧倒的な差がある。

 しかし、ここで中小企業経営者が考えなくてはいけないのは、「中小企業だから大企業より給料は安くても仕方ない」と考える経営者。そこがおかしいと気付くべきではないだろうか。中小企業でも大手よりも生産性の高い事業を営んでいる企業は多々ある。であれば、高い生産性を上げている企業は、中小企業の給料は安くて仕方ないという横並びの発想ではなく、大企業に劣らない給料、ボーナス支給があってしかるべきだが…。

仕事の成果に見合った論理的な給料設定

 それを論理的に行えるのが人事評価制度である。社員が実績を上げれば給料は上がる。たくさんのボーナスが支給される。逆に成果が出せなければ給料は現状維持。場合によっては下がることもある。中小企業として大企業と立ち回っていくには、これくらいの柔軟な制度を構築していかないと立ち並ぶことが厳しい。横並びの発想から脱して、大手に負けない処遇を用意する人事評価制度により、企業としての活力を高めることで従業員のエンゲージメントの向上や、求職者の目を惹くことが可能になる。

業員が主役の評価制度となっているか?

これからの中小企業の在り方をここで改めて確認すれば、従業員が主役であり、従業員が輝ける人事評価制度となっているか。会社が押し付けた評価制度では、若い世代は見向きもしないし、時代に取り残されているのは見えている。

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