──“育つ人”には、必ず“育てた人”がいる
優秀な社員は、勝手には育たない
「うちには若手が定着しない」
「育成しても、辞めてしまう」
「せっかく採用しても、“思ったように育たない”」
そう嘆く中小企業の社長は少なくありません。
しかし、少し角度を変えてこんな問いを投げかけてみると、どうでしょう。
「これまで自社で“育った”社員に、共通していた上司の存在はありましたか?」
人が育つ背景には、必ず“育てた人”がいる──。
これは、スポーツ界でも、アートの世界でも、そしてビジネスの世界でも、ほぼ間違いのない事実です。
“上司力”。それは、部下を伸ばす上で欠かせない、企業成長の「隠れた資産」。
今回は、そんな「上司力」に焦点をあて、育成に悩む中小企業がどう向き合うべきかを考えてみます。
成長する社員の背後に“上司あり”
ビジネス書やキャリア系メディアでは、「若手が育つ職場」「リーダー人材の育て方」など、さまざまな“育成論”が語られています。
しかし、どのような育成成功談を聞いても、その背景には必ず「あの上司がいたから」という存在があります。
たとえば──
・叱るべきときには、逃げずに厳しく向き合った
・仕事の意味を丁寧に言葉で伝えてくれた
・成果だけでなく“努力の過程”にも目を配ってくれた
・どんなに忙しくても、週1回は必ず声をかけてくれた
これは、才能や偶然の育成ではなく、意識して“仕掛けた育成”です。
言い換えれば、「優秀な上司の下で育った人ほど、ビジネスの基礎がしっかり身についている」ということでもあります。
成果は出すのに部下が育たない上司の正体」
多くの職場で、よく見られる現象があります。
それは──
「即戦力として採用した中堅社員が、いざ部下を持つと育成がまったく機能しない」という事態。
・仕事はできる
・自分の成績は出している
・営業数字も達成している
…にもかかわらず、部下が離れていく。
指示しても思うように動いてくれない。
育成面では、頼りにならない──。
この背景には、“仕事はできても、組織で人を育てた経験がない”という構造的な盲点があります。
実はこうした人の多くは、「きちんと育てられた経験がない」という共通点を持っています。
・独学でなんとか成果を出してきた
・職場を転々としながら「できる自分」を確立してきた
・基礎より先に「勝ちパターン」を追い求めてきた
このようなタイプは、「なぜ自分が成功したのか」が言語化されておらず、教えること=自分の型を押しつけることになりがちです。
当然、相手には伝わらず、育成は空回りします。
上司力とは「ビジネスの基礎」を“仕込める力”
では、上司力とは何か? 一言で言えば、「基本を徹底的に教えられる力」です。
・報告・連絡・相談の意味と“タイミング”
・仕事段取りの組み方
・期日管理、優先順位の組み立て方
・資料のまとめ方、会話の組み立て方
・クレーム時の対応姿勢
こうしたビジネスの「基本動作」は、学校で習ってはいません。 社会に出てこれらを「うるさいくらいに徹底してくれた上司がいたかどうか」がその後の成長を左右しています。
面白いデータがあります。 経済産業省の調査では、 日本企業の人材育成投資額は、米国の1/10未満。 人材の言葉が踊る日本企業としてはなんともお粗末な数字です。
このような状況の中、**興味深いことに、**社員が育っている企業の多くは、 「現場の上司による育成」を制度以上に重視している傾向があります。
つまり、企業規模や制度以前に、“現場の上司力”こそが、人材育成のボトルネックなのです。
「上司が育っていない」会社に未来はあるか?
かつての日本企業では、「背中を見て学べ」という文化が機能していました。
しかし、今の若手世代は──
・そもそも“背中”を見る機会が少ない
・説明とフィードバックがなければ行動に移しにくい
・納得しなければ、すぐに転職という選択を取る
つまり、“放っておいても育つ”時代は終わったということです。
ここで改めて問いたいのは、「育てる側が育っているか?」という点。
上司が「何を、どう、どの順番で教えればよいか」を理解していない限り、いくら制度を整えても人は育ちません。
どうすれば「上司力」を高められるのか?
では、どうすれば上司力は高まるのか?
一朝一夕では身につきませんが、ポイントは以下の3点です。
1. 育成の「型」を言語化する
感覚的な教え方では、再現性がありません。「なぜその手順なのか」「なぜその言葉を使うのか」を説明できる状態にする。
2. 評価制度に“育成視点”を組み込む
「数字を出すこと」だけが上司の評価項目になっていないか? 部下の成長やチーム力の向上を、評価項目として明文化する。
3. 管理職に“教える経験”を意図的に積ませる
育成の型は、場数で磨かれます。メンター制度や1on1など、「育てる場」をつくり、小さな成功体験を積ませることが重要です。
おわりに──優秀な部下を育てた“無名の上司”たちへ
多くのビジネスパーソンのキャリア談をたどっていくと、ある共通点に気づかされます
「新人の頃、厳しくも愛のある上司に叩き込まれた」
「一番きついときに、粘り強く対話してくれた上司がいた」
「報連相を徹底的に教えてくれたおかげで、いまがある」
そんな“名もなき上司”こそが、実は企業の底力なのです。
社員の成長に悩む中小企業が、まず手をつけるべきは制度やツールではありません。
「上司を育てること」こそが、最大の人材育成戦略なのです。





