定着率を高める“評価と育成”の一体設計

育った人が辞める会社と「辞めない会社」の違い

「せっかく育った社員が立て続けに辞めてしまって…」中小企業の経営者から、そんな声をよく聞きます。人手不足が深刻化する中、ようやく育った社員が会社を去ることは、大きな損失です。
一方で、決して高待遇とは言えなくても、社員が長く働き続けている企業も存在します。両者の違いは何なのか?実はそこには、「評価」と「育成」が断絶せずに、つながって機能しているか、という本質的な差があります。
本稿では、「定着率の高い会社」に共通する“評価と育成の一体設計”という視点から、人が育ち、辞めずに活躍し続ける組織のつくり方を解説していきます。

なぜ、育った人から辞めていくのか?

評価されているのか分からない

中小企業の退職理由としてよく聞かれるのが、「頑張っても報われている実感がない」という声です。
特に、成長意欲のある若手社員ほど、「自分の努力がどう評価されているのか」を敏感に感じ取っています。評価が曖昧で、上司の主観や感覚で決まるように見えてしまうと、仕事の手応えが薄れ、キャリアを見失ってしまいます。
「このままこの会社にいても意味がない」と感じた瞬間に、優秀な人ほど今の会社に見切りをつけていきます。

育てただけ”で終わっていないか?

研修やOJTなど、育成にはしっかり取り組んでいるのに、数年すると辞めてしまう──そんな悩みを抱える企業も少なくありません。その背景には、「育成」と「評価」がつながっていないという構造的なズレがあります。

たとえば、入社時は丁寧な教育を受け、手厚く指導された。

けれど、いざ現場に配属されると、今日・明日の成果ばかりが求められ、日報の書き方からスキル指導まで細かいところを指導される。入社時に想い描いていたキャリア形成とかけ離れたギャップに戸惑います。

さらに、3年目、5年目の先輩社員を見ても、自分とやっている業務内容に大きな違いはなく、「経験年数が違うだけ」という状況に直面します。

こうした傾向は一昔前の“意識高い系”とはまったく異なるという点です。かつての若手は、雑用を避けて早く実務に就きたがるあまり、現場とのギャップを感じていました。一方、今の若手は、雑用や地道な仕事であっても、それが将来のキャリアにつながると納得できれば、前向きに取り組もうとします。

だからこそ、育成の先にある「評価」が、その努力やプロセスをきちんと認め、処遇やキャリアに反映される仕組みでなければ、育てても辞めていくという悪循環は止まりません。

評価制度が、現場の実態や社員のリアルな感覚とズレていれば、育成にいくら力を注いでも、定着にはつながらないのです。

フィードバックのない評価は“無意味”

評価制度を導入していても、「評価シートに記入して終わり」「フィードバック面談は形だけ」といった運用にとどまっている企業は少なくありません。
「何を見て評価されたのか分からない」
「上司から一言もなかった」

──こうした声が聞かれる状態では、制度が本来の役割を果たしているとは言えません。
今の若手世代は、実は上司からのフィードバックを求めています。「どうすればもっと良くなるのか」「自分の行動がどう受け止められているのか」を知りたがっているのです。

ところが、評価者の側がこの“期待”を見誤り、自分の価値観や好みを一方的に押し付けてしまうケースもあります。評価をすべき場でありながら、部下の努力を受け止めることなく、「もっとこうすべきだった」「自分の若いころは…」と、自分の考えを語るばかり──これでは、せっかくのフィードバックの場が本来の機能を果たしません。

評価は、点数をつけることが目的ではなく、部下のこれからを支援する“対話の場”です。
納得感のあるフィードバックは、成長の方向性を明確にし、やる気を引き出す大きな力になります。

人が辞めない会社は、何をしているのか?

共通点1:「評価=育成」の設計思想

定着率の高い会社では、評価と育成が分断されていません。むしろ、評価そのものを育成の一環と捉えています。
評価項目が「できた・できていない」ではなく、「どこが成長したか」「今後どう伸ばすか」に重きを置いているのが特徴です。
そのため、上司との面談も“査定”ではなく、“キャリアの棚卸し”のような意味合いを持っています。

共通点2:目に見えにくい貢献も可視化

営業の売上や製造の不良率といった数値だけでなく、以下のような“定性的な貢献”も評価しています。

  • 新人指導を自発的に行った
  • チームの雰囲気づくりに貢献した
  • 他部署との調整役を担った
  • 現場の小さなトラブルを未然に防いだ

こうしたプロセスや影響力を評価することが、「ここはちゃんと見てくれている」という信頼につながり、モチベーションと定着率の向上を支えているのです。

評価と育成を一体化させる設計ステップ

ステップ1:理念・ビジョンと連動させる

評価制度と育成方針は、会社の理念やビジョンと連動していなければ、現場に響きません。
「この会社は何を大切にしているのか」「どんな人材を育てたいのか」──それを制度に落とし込むことが出発点です。
たとえば、理念に「信頼される仕事」を掲げているなら、「納期遵守率」や「クレーム対応力」を評価基準に組み込む。
その一貫性が、「なるほど、そういう会社なのか」という理解を社員にもたらします。

ステップ2:育成と評価を一本の線でつなぐ

育成目標と評価項目は、できる限り一致させましょう。
たとえば、「後輩の育成を任せたい」という育成方針があるなら、評価にも「育成姿勢」「指導力」といった項目を設けます。
このように“育てたい行動”を評価にも明記することで、社員の行動が育成と評価の両面から支えられるようになります。

ステップ3:評価面談を“成長の対話”に変える

面談では、評価結果を一方的に伝えるのではなく、「どこが良かったか」「どうすればもっと伸びるか」を対話的に共有することが大切です。
部下にとっては、自分の成長を実感し、今後のキャリアを前向きに描ける時間になります。
また、上司にとっても、部下の可能性や本音に気づく貴重な機会となるでしょう。

中小企業が“辞められない会社”になるために

「辞めさせない」ではなく、「辞めたくなくなる会社」を目指す──。

それは、制度で社員を縛ることではなく、評価と育成を通じて、“働く意味”を実感できる場をつくることにほかなりません。
たとえば、日々の頑張りが誰かに伝わっているという実感。「あの仕事、よくまとめてくれたね」と上司からのひと言に、「ちゃんと見てくれている」と感じられるような瞬間。
あるいは評価面談で、「この一年で●●の力が確実についてきた」「次はこんな役割に挑戦してみよう」と成長の軌跡を言葉にしてもらうことで、「この会社にいる意味」が見えてくる──そうした納得感が、働き続ける動機になります。
最近では、働き方改革の影響もあり、「残業させない」「厳しく接しない」ことにばかり目が向きがちです。もちろん、働きやすさは大切です。けれど今の若い世代が本当に求めているのは、“甘やかし”ではありません。
納得のいく形でフィードバックを受け、成長につながる経験ができるなら、多少厳しくても真摯に向き合ってくれるのです。
「この会社にいれば、自分はもっと力をつけられる」
「自分の頑張りを、ちゃんと見てくれている」
──そんな実感の積み重ねが、社員を自然と“辞められない会社”へと導いていくのではないでしょうか。

まとめ──評価制度は“人を活かす装置”である

人事評価制度は、単なる査定の仕組みではありません。

それは、「社員一人ひとりが成長し、報われるための道筋を示す装置」であり、「会社が何を大切にしているかを伝えるメッセージ」でもあります。
そして、評価制度と育成の設計が一本につながったとき、初めて制度は“定着”し、組織に力を与えるものになります。
──御社の評価制度は、「育成」とつながっていますか?

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