会議では無口、酒席では雄弁。社員はなぜ変わるのか?

―「何でも言ってくれ」が、社員に届かないとき―

日立製作所が、白物家電事業を売却するというニュースがありました。

記事の中で、私の目に留まったのは「悪魔の代弁者」という言葉です。

悪魔の代弁者とは、あえて反対の立場から意見を述べ、物事を違う角度から考える役割のこと。

この言葉で、中小企業の会議の光景を思い浮かべました。

会議では「特にありません」

「何か意見はないか?」
社長が社員に尋ねます。
しばらく沈黙が続きます。

「特にありません」

ところが、その社員たちが酒席になると、まるで別人のように話し始める。

「あのやり方、おかしいと思うんですよね」

「実は、みんなそう思っているんですよ」

会議では無口だった社員が、酒席では実に雄弁になる(笑)

長年、多くの中小企業と関わっていますが、こういう光景は珍しくありません。

社員に意見がないわけではないのです。

意見を言う場所が違うのです。

「何でも言ってくれ」と言われても

社長と話していると、「うちは社員に何でも言っていいと言っているんだけどね」という言葉を聞くことがあります。

社長としては、本当にそう思っているのかもしれません。

でも、社員がどう受け止めているかは別の話です。

以前、会議で意見を言ったら、社長の表情が曇った。

提案したものの、「それはもう決めたことだから」と話が終わってしまった。

そんな経験が重なれば、社員も次第に口を閉ざすようになるでしょう。

一方で、社長と社員が自然に意見を交わしている会社もあります。

その違いは、どこから生まれるのでしょうか。

社員が自然に意見を言える会社には、何があるのか

そうした会社の社長を見ていると、単に「何でも言ってくれ」と言っているだけではないように思います。

社長自身が、日頃から自分の考えに問いかけているのです。

「本当にこれでいいのか」

「ほかに方法はないのか」

「自分の考えが間違っている可能性はないか」

一つの決断を下すまでに、さまざまな角度から考えている。

そして、社員との普段のやり取りでも、社長の方から声をかけます。

「このやり方、どう思う?」

「現場では何か困っていることはない?」

社員の話を聞いて、自分が気づかなかったことがあれば、考え直すこともある。

社員は、そんな社長の姿を日頃から見ています。

だから、社長と違う意見でも、自然に口にできるのではないでしょうか。

社員が自由に発言できる風土は、「何でも言ってくれ」と呼びかけるだけで生まれるものではないと思っています。

社長自身が、自分の考えを絶対だと思っていない。

その姿勢が、日頃の言葉や行動を通じて社員にも伝わっているのではないでしょうか。

トップダウンは悪いことなのか

とはいえ、トップダウンの会社が悪いと言いたいわけではありません。

中小企業では、社長の判断力や決断の速さが会社の強みになることも少なくありません。

全員の意見を聞いていたら、商機を逃してしまうことだってあります。

一方で、誰もが自由に発言できても、話し合いばかりで何も決まらない会社では困ります。

大切なのは、トップダウンかボトムアップかということではないのでしょう。

社長が決めることと、社員が意見を言えることは、決して矛盾しないはずです。

社長が最終的に決断する。

その前に、社員が違う考えを持っていれば、それを伝えられる。

そして社長も、聞いたうえで判断する。

そんな関係があってもいいと思うのです。

酒席の愚痴は、会社を変える意見になるのか

もっとも、酒席で飛び交う話が、すべて会社にとって有益な意見かといえば、そうとも限りません。

単なる不満もあれば、憂さ晴らしもあるでしょう。

自分の都合だけで話していることだってあります。

だから、酒席で雄弁な社員が会議でも同じように話せば、会社が良くなるというほど単純な話ではありません。

ただ、少しもったいない気がするのです。

その中には、社長が気づいていない問題や、現場で働いているからこそ見えていることが含まれているかもしれない。

それが会議では一切出てこない。

そして、社長は「特に問題はないんだな」と受け止めてしまう。

社員が黙っていることと、社員が納得していることは違います。

ここを取り違えると、経営者は大切なものを見落としてしまうのではないでしょうか。

社長が最後に反対意見を聞いたのは、いつですか?

中小企業に、あえて反対の立場から意見を述べる役割の人を、わざわざ置く必要があるかどうかは分かりません。

ただ、社長の考えに対して「それは違うのではないですか」と言える人がいることには、意味があると思います。

そして、社長自身が自分の考えに疑問を投げかけることも、一つの「悪魔の代弁者」の役割なのかもしれません。

もちろん、社員の反対意見をすべて受け入れる必要はありません。

反対すること自体が目的になっても困ります。

それでも、社長が聞きたくない意見の中に、会社にとって大切なことが隠れている場合もあるでしょう。

「何でも言ってくれ」

そう言う前に、少し思い返してみてはいかがでしょうか。

社員から反対意見が出たとき、自分はどんな顔をしていたか。

その社員の話を、最後まで聞いただろうか。

そして、もう一つ。

最近、社員から「社長、それは違うと思います」と言われたことがありますか。

もし、しばらく思い当たらないとしたら。

社員がみんな賛成しているからでしょうか。

それとも、会議が終わるのを待っているだけなのでしょうか。

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