―人は「何を話したか」より、「何を選んだか」に表れる
これまで私は、地域のイベントというものに、ほとんど参加したことがありませんでした。
別に嫌いだったわけではありません。
ただ、自分から参加してみようと思うことがなかったのです。
ところが、地域活動に参加することになったことをきっかけに、さまざまな地域イベントを見て回るようになりました。
交通安全、防災、防犯、福祉、男女共同参画、青少年育成……。
実際にいろいろな地域のイベントに参加してみて、驚きました。
どのイベントも、想像していた以上によく考えられているのです。
テーマの決め方から当日の進め方まで、「ここまで考えて準備しているのか」と感心することが何度もありました。
そんな中、今回は地域で開かれた「ほっと一息カフェトーク」に参加しました。
そこで、自分の仕事につながるヒントをもらうことになるとは思ってもいませんでした。
何気ない「トークテーマ」
カフェトークでは、いくつかの「トークテーマ」が用意されていました。
たとえば、
「男女で仕事や役割に違いがあると思いますか」
「初めてのアルバイト・仕事の思い出」
「子どもが教えてくれたこと」
あるいは、
「小さな幸せを感じる瞬間は?」
「家事や育児、介護はどのように分担するのがよいと思いますか?」
そして、
「男性・女性それぞれの立場で、良かったことや大変だったことはありますか?」
「子どもにはどんな大人になってほしいですか?」
「年を重ねてよかったと思うことは?」
といったテーマです。
参加者は、この中から自分が話したいテーマを選び、5、6人ほどのグループで話します。
私のグループは女性2人、男性2人でした。
最初は、ごく普通の話題を使ったグループトークだと思っていました。
ところが、この方たちの話を聞いているうちに、
「このトークテーマ、実によくできているな」
と思い始めたのです。
同じ場にいても、選ぶテーマが違う
女性のお二人の話が、とても対照的でした。
一人は、
「女性に生まれてよかった」
という話をされました。
ところが、もう一人は逆でした。
「男性に生まれたかった」
というのです。
同じ女性でも、これまでの人生経験によって受け止め方はまったく違っているのです。
一方で、子育てについて話されると、お二人とも共通するものがありました。
大変なこともあったけれど、子どもを育てた経験が自分の人生に充実感を与えている。
そんな話でした。
もう一人の男性は、仕事について話をされました。
もともと大きな会社で働いていましたが、その後、当時まだ成長途上だった新しい事業へ異動することになったそうです。
最初は、かなりの戸惑いがあったといいます。
ところが、その事業がその後どんどん成長していく。
そこで経験したことが、結果として自分にとって大きな糧になったという話でした。
私は、その話を聞きながら、ふと思ったのです。
なぜ、この人はこの話を選んだのだろう。
人は、自分が話したいことを選んでいる
トークテーマはたくさんありました。
誰かから、
「あなたの人生で大切だった仕事の経験を話してください」
と指定されたわけではありません。
自分で選んでいるのです。
ということは、
「何を話したか」だけでなく、「何を選んだか」にも、その人が表れているのではないか。
その方にとって、当時の異動は単なる昔話ではなかったのでしょう。
当初は挫折だと思った。
しかし、振り返ってみると、その経験が自分をつくっている。
だから、数あるテーマの中からその話を選んだ。
本人がそこまで意識していたかどうかは分かりません。
でも私は、
人は、自分にとって意味のあることを誰かに分かってもらいたいのではないか
と思ったのです。
これは女性のお二人も同じです。
女性として生きてきたこと。
子どもを育てたこと。
その中で感じてきたこと。
何を選び、何を話すか。
そこには、その人がこれまで生きてきた中で大切にしてきたものが、自然に出てくる。
やり取りをしているうちに、
「これ、人事評価でも同じことではないか」と思ったのです。
評価面談で、私たちは何を聞いているだろう
評価の面談では、どうしても「評価するための質問」が多くなります。
「目標はどこまで達成できましたか」
「何ができましたか」
「何ができませんでしたか」
「次はどうしますか」
もちろん、どれも必要な質問です。
しかし、それだけで社員のことを本当に理解できるでしょうか。
たとえば、ある社員が、
「今期は新人の面倒をかなり見ました」
と話したとします。
評価項目に「後輩育成」があれば、
「なるほど。育成ですね」
と評価して終わることもできます。
でも、そこで一つ聞いてみる。
「どうして、そこまで新人に関わったの?」
すると、
「自分が新人だったころ、誰にも聞けなくて苦労したんです」
という答えが返ってくるかもしれません。
同じ「新人を育てた」という行動でも、その背景にはその人なりの経験や考え方があります。
それを知らずに、評価シートの「育成」という欄に○をつけるだけでは、見えないものがある。
「何を選んだか」を見てみる
今回のカフェトークで私が一番面白いと思ったのは、
自ら選んで自ら答える。
たとえば、
「仕事をするうえで、あなたが大切にしているものは何ですか?」
といきなり聞かれても、なかなか答えにくい
そこで、
「お客様から信頼されること」
「売上を上げること」
「仲間を助けること」
「後輩を育てること」
「新しいことに挑戦すること」
「専門性を高めること」
「ミスを減らすこと」
など、いくつか示してみる。
そして、
「この中から、自分が特に大切だと思うものを3つ選んでください」
と聞く。
大切なのは、選んだ後です。
「選んだ理由」を
聞いていくと
そこには、その社員が仕事で経験してきたことや、大切にしていることが出てくるはずです。
心理テストではありませんから、
もちろん、それだけで人を判断してはいけません。
でも、
その人を理解する入口にはなる。
私はそう思います。
では、経営者が選んだらどうなるだろう
そして、ここまで考えて、もう一つ思いました。
これを社員ではなく、経営者にやってもらったらどうなるのだろう。
考えただけで愉快になりませんか(笑)
「社員に何を期待していますか?」
とかありきたりな質問ではなくて、
いくつかの言葉を並べて、
「社員に一番大切にしてほしいものを5つ選んでください」
と聞いてみる。
そして、
「なぜ、この5つなのですか?」
と聞く。
そこに出てくるものは、単なる思いつきではないはずです。
創業してから経験してきたこと。
お客様との関係。
社員との出来事。
失敗したこと。
うまくいったこと。
そして経営者自身が仕事をするうえで大切にしてきたこと。
そうしたものが、選んだ5つの言葉の背景にあるのではないでしょうか。
普段はワンマンで、朝令暮改も珍しくない。
仕事には厳しく、社員から見れば「自分たちのことなんて考えていない」と思われている社長がいたとします。
ところが、「社員に一番大切にしてほしいものを5つ選んでください」と選んでもらい、その理由を聞いてみると、実は社員のことを真剣に考えて経営していることが見えてくる。
経営者自身も、うまく言葉にできていなかった思いが、そこから出てくるかもしれません。
だとすると、
それこそ、その会社が社員に求めたい行動、つまり評価基準の原石なのかもしれません。
たかがトークテーマ。でも、面白い
何気なく配られたトークテーマ。
「あなたは何を大切にしていますか?」
「この中だったら、どれについて話したいですか?」
と聞くことで、その人が見えてくる。
「この会社は何を大切にしたいのか」
「社員は仕事の何を大切にしているのか」
そんなことを知るところから始めてもいいのかもしれません。
地域のカフェトーク。すごいです。





