会社のいろいろは、つながっているのでしょうか。
採用の場で、社長が会社の話をすることがあります。
「うちは、若い人にもどんどん仕事を任せています」
「社員一人ひとりの成長を大切にしています」
「お客様を第一に考えています」
「これからは、新しいことにも挑戦していきたい」
社長が自分の言葉で語る会社の話には、その会社の今と、これからが表れています。
採用に関わる中で、社長が話される言葉を聞くことがあります。
その言葉には、求人票や会社案内には書かれていない、その会社らしさが出ています。
社長が、どんな会社にしたいと思っているのか。
社員に、どんな働き方をしてほしいと思っているのか。
これから、どのような会社を目指しているのか。
直接聞くからこそ伝わるものがあります。
ところが、そのあとで会社のホームページを見ると、少し違う印象を受けることがあります。
社長が採用の場で話していた、今の会社の姿やこれからの方向性が、社長挨拶には出ていません。
掲載されている文章は、どの会社にも当てはまりそうな言葉が並んでいます。
経営理念や事業内容も、社長が話していた内容とは、少し距離があります。
採用の場で語る社長と、ホームページに掲載されている社長。
同じ人のはずなのに、別の会社の話をしているように感じることがあります。
こういう場面に出会うと、いつも考えます。
この会社の本当の姿は、どこに表れているのだろうか。
会社は、いくつもの言葉でできている
会社には、いろいろな言葉があります。
社長挨拶。
経営理念。
経営方針。
中期計画や年度方針。
事業紹介。
求人票や採用ページ。
社員に向けた社長の話。
そして、人事評価制度に書かれている評価項目や、日々の上司の言葉があります。
これらは、一見すると別々のものに見えます。
ホームページは広報の話。
採用は人材募集の話。
経営理念は社長の想いの話。
評価制度は人事の話。
しかし、本来は、別々のものではありません。
会社が何のために存在するのか。
どこへ向かおうとしているのか。
そのために、どのような事業を行うのか。
どのような組織をつくるのか。
どのような人材を採用し、育てるのか。
どのような行動や成果を評価するのか。
一つの会社の中で起きていることです。
経営理念は、会社の目的を表します。
経営方針は、その目的に向かう方向を示します。
事業計画は、そこへ向かうための具体的な道筋です。
組織や役割は、その計画を実行するためにあります。
採用や育成は、必要な人材を準備するためにあります。
評価や報酬は、会社が大切にする行動や成果を、社員に伝える役割を持っています。
本来は、つながっているはずです。
しかし、つながっている会社は多くない
「経営理念と経営戦略がつながっている」
「経営戦略と人事戦略がつながっている」
このような話は、よく聞きます。
もちろん大切なことだと思います。
ただ、実際に会社を見ていると、すべてがつながっている会社は、決して多くありません。
経営理念は立派です。
経営計画もあります。
採用にも力を入れています。
評価制度も整えています。
それでも、一つひとつを並べて見ると、少しずつ方向が違っていることがあります。
社長は「お客様に喜ばれる仕事をしよう」と話している。
しかし、評価制度では、売上の数字だけが重視されている。
会社の方針には「新しいことに挑戦する」と書かれている。
しかし、失敗した社員は、次から仕事を任せてもらえなくなる。
採用では「若手にも仕事を任せる」と伝えている。
しかし、入社すると、細かなことまで上司の指示を待たなければならない。
「社員を大切にする」とホームページに書かれている。
しかし、社員が何を期待されているのか、どのように成長すればよいのかは、明確になっていない。
それぞれの言葉だけを見れば、間違ってはいません。
でも、つながっていない。
社長挨拶に、その会社の現在が出ているか
社長挨拶は、会社の顔です。
もちろん、格式のある文章が必要な場合もあるでしょう。
創業への想い、これまでの歩み、社会への貢献など、変わらない言葉を残すことも大切です。
ただ、社長が採用の場で話していることが、社長挨拶にまったく表れていないとしたら、少しもったいない気がします。
採用の場では、社長が自分の言葉で話している。
「今はこの事業に力を入れている」
「これからは、このような会社にしていきたい」
「社員には、こういう仕事の仕方をしてほしい」
そこには、今の会社の息づかいがあります。
一方で、ホームページには、数年前に作った文章がそのまま残っている。
内容が間違っているわけではありません。
しかし、今の会社を表しているとも言い切れません。
問題は、文章が古いことではありません。
社長の中では会社が変わっているのに、その変化が会社の言葉や仕組みに反映されていないことです。
会社が変われば、事業も変わります。
事業が変われば、必要な人材も変わります。
必要な人材が変われば、採用や育成の考え方も変わります。
評価する行動や、任せる役割も変わるはずです。
それなのに、社長挨拶だけが昔のまま。
採用情報だけが別の会社のような内容。
評価制度はさらに以前に作られたもの。
これでは、会社の中と外で、違う会社が動いているように見えてしまいます。
採用は、会社の入口だけではない
採用では、会社の魅力を伝えます。
どんな仕事ができるのか。
どんな仲間と働くのか。
どのような成長ができるのか。
どんな会社を目指しているのか。
そして、求職者は、その言葉を信じて入社します。
だから、採用で語ることは、単なる広告文ではありません。
入社する人に対する、会社からの約束でもあります。
「挑戦できる」と伝えるなら、入社後に挑戦できる役割が必要です。
「成長できる」と伝えるなら、育成の機会や、成長を確認する仕組みが必要です。
「社員を大切にする」と伝えるなら、社員の意見を聞き、適切に評価し、必要な支援をする必要があります。
採用の言葉と、会社の中で起きていることが違えば、入社した社員は戸惑います。
「面接のときに聞いていた話と違う」
「会社が言っていたことと、上司の言っていることが違う」
「頑張れば評価されると思っていたが、何を頑張ればよいのかわからない」
この違和感は、入社した人だけの問題ではありません。
会社が、自分たちの考えを一つにつなげられていないことの表れです。
評価制度には、会社の本音が出る
会社が何を大切にしているかは、評価制度を見ると、よりはっきりします。
経営理念には、きれいな言葉が並びます。
ホームページにも、会社の想いが書かれています。
採用では、社長が熱く語ります。
では、実際にどのような社員が評価されているのでしょうか。
売上を上げた人でしょうか。
新しい仕事に挑戦した人でしょうか。
周囲を助けた人でしょうか。
後輩を育てた人でしょうか。
問題を見つけ、改善した人でしょうか。
評価制度は、会社が社員に「これを大切にしてほしい」と伝える仕組みです。
ですから、評価制度に書かれていることと、社長が語ることが違っていれば、社員は評価制度の方を信じることになります。
社員は、言葉ではなく、実際に何が評価され、何が報われているのかを見ています。
「挑戦を評価する」と言われても、挑戦した結果、失敗した人が不利になるなら、社員は挑戦しなくなります。
「協力を大切にする」と言われても、個人の数字だけで給与が決まるなら、社員は自分の数字を優先します。
社長がいくら立派な理念を語っても、日々の評価や報酬とつながっていなければ、社員に伝わるのは別のメッセージです。
会社運営は、一枚の絵のようなもの
会社運営を考えるとき、一枚の絵を思い浮かべることがあります。
経営理念は、絵の一番上にあるタイトルのようなものです。
経営方針や事業計画は、絵の構図です。
組織や役割は、そこに描かれる人や道具です。
採用や育成は、絵を描く人を集め、技術を高めることです。
評価や報酬は、どの部分を大切に描くのかを示す線です。
ホームページや採用情報は、その絵を外から見てもらうための窓です。
一つひとつが別の絵であれば、見る人は混乱します。
会社の中にいる社員も、どの絵を見て働けばよいのかわかりません。
もちろん、会社は生き物です。
事業が変われば、方針も変わります。
社員が増えれば、組織の形も変わります。
社長の考えも、経験によって変わります。
ですから、すべてがいつも同じである必要はありません。
変わってよいのです。
ただ、変わったのであれば、他のものも一緒に見直さなければなりません。
事業を変えたなら、必要な人材を考える。
方針を変えたなら、社員に求める行動を考える。
求める行動を変えたなら、評価制度を考える。
評価制度を変えたなら、採用で伝える内容も考える。
一つを変えたら、他のものとのつながりを見る。
これが、会社を運営するということではないかと思います。
人事評価制度を見るときに考えていること
人事評価制度の相談を受けたとき、私は、最初から評価項目だけを見ることはありません。
会社は、何を目指しているのか。
社長は、どんな会社にしたいのか。
今の事業で、これから必要になるものは何か。
そのために、社員にどんな役割を担ってほしいのか。
そこから考えます。
評価制度は、会社の中の一部分です。
そこだけをきれいに整えても、経営方針や採用や育成とつながっていなければ、制度は機能しません。
逆に、すべてが完全でなくても、会社の考え方が一つの方向につながっていれば、社員は迷いながらも判断できます。
社長の言葉と、評価される行動がつながっている。
採用で伝えたことと、入社後の仕事がつながっている。
経営方針と、社員の役割がつながっている。
会社の現在と、外に発信している情報がつながっている。
このつながりが、社員にとっての安心や納得につながります。
最後に
人事評価制度を通して、さまざまな会社を見ています。
会社には、それぞれの想いがあります。
社員にこうなってほしいという願いがあります。
お客様に、こういう価値を届けたいという考えが。
その想いは、採用の場で社長が話すとき、とてもよく伝わります。
しかし、会社が大きくなり、年月が過ぎ、事業が変わっていく、そのカタチが少しずつ分かれていくことがあります。
社長の頭の中にはある。
採用では話している。
でも、ホームページには表れていない。
経営理念には残っている。
しかし、方針にはつながっていない。
評価制度には、別のことが書かれている。
現場では、また違う判断が行われている。
こうして、会社の中に、いくつもの会社ができてしまいます。
会社運営で大切なのは、立派な制度を一つ作ることではなく、会社のいろいろなものが、同じ方向を向いていることだと思います。
経営理念。
経営方針。
事業計画。
組織と役割。
採用と育成。
人事評価と報酬。
社長の言葉。
社員の日々の行動。
会社の外に向けて発信している情報。
これらは、別々の仕事ではありません。
一つの会社を、違う場所から表しているものです。
すべてが完全につながっている会社は、見てきた限り、決して多くありません。
だからこそ、私は人事評価制度を考えるとき、評価表だけを見ないようにしています。
社長が何を語っているのか。
会社は何を約束しているのか。
社員は何を期待されているのか。
何をすれば評価されるのか。
その一つひとつを見ながら、会社の中にある線をたどっていくと、
その線が途中で切れていることがあります。
別の方向へ伸びていることもあります。
でも、切れていることに気づけば、つなぎ直すことができます。
会社のいろいろなものがつながったとき、社長の想いは、ようやく社員の日々の仕事に届くのだと思います。
人事評価制度を整えるということは、評価表を作ることだけではありません。
社長が語る会社と、社員が働く会社を、一つの会社につなぎ直すことなのだと思います。





