人事評価制度 完全攻略マップ

― ただし、正解は一つではない

10月は、人事評価制度のことを考えるのに、ちょうどいい時期です。
毎年秋には最低賃金が改定されます。

新人の給与が上がり、数年目の先輩社員との給与差が縮まった、という会社もあるでしょう。
下期の評価期間が始まる会社もあります。冬の賞与に向けて、上期の評価をつける会社もあります。

そんなとき、社員から、
「なぜ、この給与なのですか」
「なぜ、私はこの評価なのですか」
と聞かれたら、きちんと説明できるでしょうか。

給与をいくらにするか。
評価を何点にするか。

もちろん、それも大切です。
でも、その前に、

「うちの会社は、社員に何を期待しているのか」
これを説明できるかどうか。
ここが人事評価制度の大事なところだと思っています。

「知り合いの会社が入れたから」では、なぜうまくいかないのか

人事評価制度について経営者の方と話をしていると、こんな話を聞くことがあります。
「知り合いの社長から、評価制度を入れて会社が良くなったと聞いた」
「うちも社員が増えてきたので、そろそろ評価制度が必要だと思っている」

一方で、すでに導入している会社からは、
「制度はあるけど、正直うまくいっていない」
「評価シートを書くことが目的になっている」
「結局、最後は社長が給与を決めている」

そんな話も聞きます。
では、うまくいっている会社と、うまくいかない会社。
何が違うのでしょうか。

評価項目の作り方や、評価シートの出来だけの問題ではないと思っています。
もっと手前にある、
「何のために評価制度をつくるのか」

ここから順番に考えているかどうか。
この違いが大きいと思います。

評価シートは、AIが数分で作ってくれる時代になった

今は生成AIに、
「中小企業向けの人事評価シートを作って」
と頼めば、数分で作ってくれます。

成果、能力、協調性、主体性、責任感……。
それらしい評価項目が並び、評価基準までつけてくれます。
見た目も立派です。

では、それで人事評価制度はできあがるのか。
そうではないと思っています。

AIは、評価制度づくりのいろいろな場面を手伝ってくれて、
会社の理念をもとに評価項目の案を出すこともできます。
役割基準のたたき台を作ることもできます。
給与制度を考えるためのシミュレーションもできます。

これから先、できることはもっと増えていくでしょう。

しかし、
「うちの会社は何のために評価するのか」
「社員に何を期待するのか」
「これから、どんな会社にしたいのか」
AIはいくつもの案を出してくれても、

「うちは、これでいく」
と最後に決めるのは経営者です。

評価シートを簡単につくれる時代になったからこそ、その手前をどこまで考えているかで、
制度の中身には大きな差が出てくるのではないかと思います。

まず、「制度のどこで止まっているのか」を見てみる

今回は、人事評価制度の全体像を8つのSTEPに整理してみました。

これから制度をつくる会社なら、STEP1から順番に考えてみてください。
でも、すでに制度がある会社は、STEP1から読む必要はありません。

まず、こんな症状が出ていないか見てください。

よくある症状止まっている可能性があるところ
評価シートを書くことが目的になっているSTEP1 何のためにやるのか
社員が「何を頑張ればいいのか分からない」と言うSTEP2 会社の期待
課長になってもプレーヤーのまま仕事をしているSTEP3 役割
評価項目が全社員共通で、職種や立場に合っていないSTEP4 評価する中身
結局、最後は社長が給与を決めているSTEP5 評価と給与
同じ仕事でもA課長なら「4」、B課長なら「2」STEP6 評価する人
導入して数年、一度も中身を直していないSTEP7 運用と改善
会社の規模や事業が変わったのに制度は昔のままSTEP8 会社の変化

いくつか当てはまる会社もあるかもしれません。

大事なのは、
「うちの制度はダメだ」
と考えることではありません。

「うちは、どこで止まっているのだろう」
と考えてみることです。

それが分かれば、全部を作り直さなくても、見直すところが見えてきます。

STEP1 まず「何のためにやるのか」を決める

評価制度をつくろうとすると、多くの会社が最初に考えるのが「評価項目」です。

協調性。

積極性。

責任感。

目標達成率。

もちろん、こうした項目も必要です。
でも、その前に考えることがあります。

「そもそも、なぜうちの会社は評価制度を入れるのか」
ということです。

給与を公平に決めたいのか。
頑張っている社員をキチンと評価したいのか。
若手を育てたいのか。
管理職を育てたいのか。
会社の考え方を社員にもっと理解してほしいのか。
社長一人で社員を見ていくことに限界を感じているのか。

会社によって、評価制度を必要とする理由は違って当然だと思います。
ここが曖昧なまま始めると、途中から「評価すること」そのものが目的になってしまいます。

評価制度をつくることが目的ではありません。
会社の何を変えたいのか。

まず、ここを決める。
これが最初の一歩です。

STEP2 会社が社員に何を期待しているのかを言葉にする

次に考えるのが、
「うちの会社は、社員に何を期待しているのか」
ということです。

これは意外に難しい。

経営者の頭の中にはあるのです。
「お客様を大切にしてほしい」
「指示を待つのではなく、自分で考えてほしい」
「後輩を育ててほしい」
「会社全体を見て判断できる管理職になってほしい」
ところが、それが社員に伝わる言葉になっていない会社は少なくありません。

社長は、
「それくらい分かっているだろう」と思う。
社員は、「社長が何を求めているのか、よく分からない」と思う。

このズレが大きいのです。
人事評価制度には、このズレを埋める役割があります。

経営理念や会社の方針、事業計画。
それを日々の仕事に落として、
「この会社では、こういう仕事をしてほしい」と伝える。

評価制度は会社から社員へのメッセージでもあります。

STEP3 役職ではなく「役割」を決める

社員が増えてくると、主任、係長、課長、部長といった役職が増えていきます。

ところが、
「課長って、うちの会社では何をする人ですか?」
と聞くと、意外にはっきりしないことがあります。

長く勤めているから課長。
仕事ができるから課長。
部下ができたから課長。

たとえば、営業成績が一番いい社員を課長にしたとします。
ところが課長になっても、本人は自分で売り続ける。

会社が「課長になったら部下を育ててほしい」と考えていても、
それを本人にきちんと伝えていなければ、本人は今まで通り頑張ります。
その結果、
「課長になったのに部下が育たない」
という話になる。

でも、それって本人だけの問題でしょうか。
会社が課長の役割を決めていなかったことにも原因があると思います。

コレ実際に多くの会社で起こっている現実です。
一般社員には何を期待するのか。
主任になったら何が変わるのか。
課長になったら、自分の仕事だけできればいいのか。
部長には何を任せるのか。

役職名を決めることより、
「その立場になったら、何を担ってもらうのか」
を決めること。

ここが、役割等級や職務基準の土台になります。

STEP4 ここで初めて「何を評価するのか」を考える

ここまで来て、ようやく評価項目です。
成果を見るのか。
仕事への取り組み方を見るのか。
能力を見るのか。
役割を果たしているかを見るのか。

そして大切なのは、すべての社員を同じ物差しで測らないことです。
営業と総務では仕事が違います。
新人とベテランでも違います。

一般社員と管理職なら、会社から期待されていることはもっと違います。
評価項目のひな型はネットにいくらでもあります。
AIに頼めば、もっと簡単に作れます。
でも、AIに良い評価項目を考えてもらうためにも、

「何のために評価するのか」
「社員に何を期待しているのか」
「それぞれの役割は何なのか」

というSTEP1〜3が必要です。

この前提を渡さずに、
「評価シートを作って」
とだけ頼めば、それらしいものは出てきます。

でも、それは、
どの会社にも当てはまりそうで、実はどの会社にもぴったりとは合わない評価シート
になってしまうかもしれません。

評価シートは、人事評価制度の出発点ではありません。
ここまで考えてきたことの結果として、できあがるものです。
この順番を逆にしないことです。

STEP5 評価と給与・賞与・昇格をどうつなぐか

評価制度を導入すると、必ず出てくる話があります
「それで、評価が上がったら給料はいくら上がるのですか?」

当然の疑問です。
ここを曖昧にしたまま、
「評価は成長のためです」
と言っても、社員にはなかなか納得してもらえません。

一方で、評価点をそのまま機械的に給与に連動させればいいかというと、そうとも思いません。
会社の業績があります。
人件費全体も考えなければなりません。
採用市場の給与水準も変わります。
最低賃金の改定も、その一つです。

新人の給与を引き上げた結果、数年働いている社員との給与差が小さくなることもあります。
そのとき、
「自分は何年も働いているのに、なぜこの給与なのですか」
と聞かれたら、会社としてどう説明するのか。
その都度、社長が考えて調整する。

それを繰り返している会社もあります。
評価、給与、賞与、昇格。
それぞれをどうつなぐのか。

会社としての考え方とルールを持ち、社員に説明できるようにしておく。
ここまであって、初めて評価制度が処遇につながっていきます。

STEP6 実は制度より難しい。「評価する人」を育てる

評価制度をつくった。
評価シートもできた。
給与との関係も決めた。

これで制度が動くかというと、実はそう簡単ではないのです。
ここから大きな問題が出てきます。

「誰が評価するのか」です。
同じような仕事をしている社員なのに、
A課長なら「4」。
B課長なら「2」。
これでは社員は納得しません。
もっと難しいのは、評価結果を本人に伝える場面です。

なぜ、この評価なのか。
何ができていたのか。
何が足りなかったのか。
次は何を期待しているのか。

これを管理職が、自分の言葉で説明できるか。
評価面談で、
「会社の決まりだから」
「上が決めたことだから」
と説明してしまうことがあります。

管理職本人は、部下とぶつからないようにと思っているのかもしれません。
しかし部下からすると、
「自分のことを見てくれていない」
と感じることがあります。

制度を入れたことで、かえって上司と部下の信頼関係を悪くしてしまったら、本末転倒です。

人事評価制度を導入するということは、
同時に、管理職を育てることでもある
と思っています。

評価基準を理解する。
部下を見る。
話を聞く。
フィードバックする。
次の成長について一緒に考える。

制度だけ立派にしても、評価する人が育っていなければ、なかなか機能しません。

STEP7 最初から100点の制度をつくろうとしない

これは、評価制度づくりで私が特に大切だと思っていることです。
最初から完璧な制度をつくろうとしない。
どれだけ考えてつくっても、実際に運用してみなければ分からないことがあります。
「この項目は評価しにくい」
「この職種には合っていない」
「評価者によって解釈が違う」
「この基準では評価に差がつかない」

やってみて、初めて見えることがあります。
だから私は、

制度はつくって終わりではなく、運用しながら育てていくもの

だと考えています。
7割、8割でも一度走らせる。
そして直す。
また走らせる。

会社も社員も変わっていくのですから、制度だけが最初から完成しているはずがありません。

STEP8 会社が変われば、評価制度も変える

社員20人の会社と100人の会社。
創業社長が全社員の仕事を見ている会社と、管理職に経営の一部を任せている会社。
新しい事業を始める会社と、次の世代への事業承継を考えている会社。

同じ評価制度でいいでしょうか。
会社は変わります。
事業も変わります。
社員も変わります。
求める人材も変わります。

それなのに、
評価制度だけが5年前、10年前のまま。
これでは、どこかで会社の実態と合わなくなります。

人事評価制度にも、定期的な点検が必要です。
今の会社の方向性と合っているか。
今の社員に求めていることと合っているか。
管理職が運用できているか。
給与制度との間に矛盾はないか。

一度つくった制度を守ることより、会社の成長に合わせて変えていくことの方が大切だと、私は思っています。

「完全攻略マップ」なのに、正解は一つではない

ここまで8つのSTEPを書いてきました。
ここで少し、矛盾するようなことを言います。
この8つのSTEPを、そのまま真似して評価制度をつくってほしい、ということではありません。
「この8STEP通りにやれば、うちにも正しい評価制度ができる」
そう考えてしまったら、

この記事の最初に書いた、
「あの会社が入れてうまくいったから、うちも入れよう」
という話と、あまり変わらなくなってしまいます。
このマップで伝えたいのは、

「この制度を入れてください」ではありません。
「この順番で、自分の会社のことを考えてみてください」
ということです。

考えるべき順番はあります。
でも、その先にできあがる制度は、会社によって違っていい。

製造業とIT企業。
30人の会社と300人の会社。
若手社員の定着に悩んでいる会社と、事業承継を控えている会社。
抱えている課題が違うのに、同じ評価制度になる方がおかしいのではないでしょうか。

AIに相談すれば、たたき台はいくらでも出てきます。
でも、「うちの会社は、これでいく」と決めるのは経営者です。
だから、100社あれば100通り。

地図は必要。でも、目的地まで同じである必要はない
地図があれば、自分が今どこにいるのかが分かります。
これから評価制度をつくる会社なら、STEP1から。
すでに制度がある会社なら、最初の診断表から。

「うちはSTEP3かな」
「いや、STEP6の管理職の問題かもしれない」
「そもそもSTEP1を考えたことがなかった」
全部を作り直す必要はないかもしれません。

一つ直すだけで、動き始める会社もあると思います。
10月、下期のスタートです。
「うちの会社は、いまどこにいるのだろう?」
今回のマップが、それを考えるきっかけになればと思います。

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